コロナの感染拡大がなかなか収まりません。東京、神奈川、千葉、埼玉に続き、大阪、兵庫、京都、愛知、岐阜、福岡、栃木の7府県に対しても緊急事態宣言が発令され、宣言の対象は11都府県に及んでいます。
コロナ禍の影響で、昨年から〝テレワーク〟なる働き方が急速に増え、外出せず人と接触しない社会が当たり前のようになってきました。
還暦をとうに過ぎた老兵の身からすれば、積極的に外回りをし幾度となく人と会い、そこから営業上の成果を引き出すよう上司から指導され、それを愚直に実践してきた世代でありまして、その違和感は半端ないものがあります。
相手の表情や身振り手振りを直に間近で見ながら交渉することで、相手との距離の縮め方だとか、その懐に入る術だとかが自ずと経験として積み重ねられていったように思います。これから人間は、対人関係におけるマナーや個人個人の感性を喪失していってしまうのではないか、老婆心ながらそんな危惧を抱いてしまい、暗く憂鬱な気分になってしまいます。
重苦しい雰囲気が漂う毎日ですが、そんななかで先日、久々に爽快な気分を味わうことができました。大阪メトロ谷町線の東梅田駅。私は乗車待ちで列の最後尾に並んでいて、〝ラッシュ時ではないけどもう座るのは無理〟と覚悟を決めていたところ、20代半ばくらいでしょうか前にいた青年が、先に乗るよう手招きで私を促し、一つだけ空いていた席に座らせてくれました。
予期せぬ事であり、自分も席を譲られる年になったのかなどと戸惑いながらも、なんともいえぬ清々しい気分になりました。南森町で降りる彼に礼を言うと笑顔を返してくれ、ぱっと希望の光が差し込んだようで、その後ろ姿を見送りながら「この社会もまだまだ捨てたもんじゃないな」と実感した次第です。
コロナに翻弄されるなか、テレビのコメンテーターらがあれやこれやの自説を披露する昨今のかまびすしい状況にはもううんざりです。要は簡単な事で、『人に対するわずかばかりの配慮と思いやりがあれば、大概の問題は解決できる』。老人の戯れ言かもしれませんが、あの地下鉄の青年の若々しく溌剌とした表情を思い出す度、そう強く思えてなりません。老境にあって、自分もかくありたいと願うばかりです。