【優秀な女性が活躍できる環境整備を】
 「リケジョ」、「ドボジョ」、そして一般社団法人日本建設業連合会が二〇一四年に公募で決定した「けんせつ小町」。いまや女性技術者・研究者の登用は特別なことではなくなりました。その背景には、少子高齢化による労働力人口の減少が日本経済の衰退をもたらすという切迫した問題があります。「男性社会」と言われた建設業界においても、女性の労働力が期待されるようになってきました。
「結婚・出産しても仕事を続けたいのですが、この会社は大丈夫でしょうか」。女子学生からこのような質問をこれまで頻繁に受けてきましたが、ここ一、二年では減少傾向にあります。理由は、彼女たちは今、女性にとって、そして理系女子にとって追い風が吹いていることを認識しているのでしょう。ダイバーシティ(多様な人材を積極的に活用しようという考え方)の概念がすでに大学生の間でも定着し、この先、先行き不透明な将来に対して自己責任で向かわなければならないことも、理解しはじめているのです。二〇一二年から始まった「子ども・子育て支援新制度」、そして昨年四月一日の「女性活躍推進法」施行、さらに今年一月一日に施行された「改正育児・介護休業法」などにより、女性活躍の場の広がりによって、すでに社会から認められた権利だと安心し、信じているように思います。加えて、企業OGや女性管理職からの女性登用に配慮した取組説明が増えている昨今の企業案内にも起因しているのではないでしょうか。
女性登用の評価が示されたアンケート調査(二〇一三年、一般社団法人技術同友会)「女性技術者活躍に向けてのポジティブアクションについての提言」によると、女性技術者を採用・登用した企業の半数以上が、「期待通り」と回答しており、その要因として、高い順に「向上心」「専門能力」「コミュニケーション能力」「積極性」「協調性」があがっています。例年、女子学生のほうが就職活動には積極的で、学内セミナーの参加率も男女ほぼ同率にあります。
また、一昨年、一般社団法人全国建設業協会が四十七都道府県建設業協会会員企業(一万九千四百二十六社)を調査対象とした「女性職員の在職及び採用状況調査」によると、女性の最近一年間の採用者の男女比率は、「女性」が一五・六%(前年同期一四・三%)となり、昨年に比べ女性職員を多く採用していることがわかりました。同じく過去一年間に採用した女性の職種は、「技術者」が二二・七%(同一五・三%)、技能者が七・四%(同三・二%)であり、「技術者」で七・四ポイント、「技能者」で四・二ポイントの増加であり、女性技術者・技能者の積極的採用の傾向がみられました。とはいえ、全国四万八千六百七十の建設現場を調査した結果では、女性のいる現場はいまだ全体の五・五%でした。現実的には厳しい業界の一つでしょう。女性の活躍を推進していく中で不可欠なのが、「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」の充実です。実現にむけて、育児休業制度の利用促進や、事業所内保育所の設置、キャリア相談室、介護相談窓口、の開設など様々な施策が企業の努力によって行われています。しかし、その一方で、長年注視されているのが「男性の家事・育児への参加」です。平成二十五年版厚生労働白書によると、「夫の家事・育児時間が長くなるほど、第二子以降の生まれる割合が高くなる傾向がある」ことが示されています。人口減少幅を縮小することができれば一挙両得。そもそも男性中心で生産性が保たれてきた現場に女性を登用することは、一時の効率低下が課題になると思います。女性活用制度導入には初期投資が必要ですが、結果的に新しい生産性向上パターンが生み出され、回収できる好循環の取り組みを、リケジョ、ドボジョ、けんせつ小町は信じていると思います。女性ならではの視点・専門的知識・技術を培い、建設業界での活躍を希望する女子学生のために、是非とも環境整備を推進し、積極採用のご検討をお願いします。優秀な女性人材登用を持続的な経営の効率化に活かしてみてはいかがでしょうか。
最後に冒頭の女子学生の質問にはどう答えているのか、についてお話しします。女子学生が将来の長期的なキャリアを築くための方法。もちろん、希望企業の育児休業などの制度と実態のギャップを見極めることも大事なのですが、最終的には職場だけに求めるものではない、とお答えしています。自分が決めて入社した以上、入職の早い段階で仕事の基盤をつくり、コツコツと実績を重ねていく努力が重要。一日も早く一定の評価を得られるようになって、組織にとって価値ある人材になることで、おのずとキャリアの幅は広がってくる。つまり自分の力で選択肢を増やす覚悟が必要ではないか、と伝えます。この姿勢に男も女もありませんが。
彼女たち一人一人が、自分の「やりたいこと(希望・理想)」と「やれること(能力・技術)」、そして「やるべきこと(使命・価値)」をすり合わせながら、自立への自信を高め、満足いく人生を創造していくことを切に願っています。
新居田 久美子(キャリアコンサルタント)